農業参入で失敗する会社には共通点がある
農業参入で失敗する会社には、いくつかの共通点があります。
しかも、自分でも気づかないうちに、その失敗の型に入っていくケースが少なくありません。
多くの事例を見ていくと、農業参入の失敗は、まったく異なる原因で起きているように見えて、実際には同じような構造に収まります。
特別な失敗ではありません。
むしろ、農業という事業の前提を整理しないまま進めると、自然に同じ形になっていきます。
前回は、なぜ農業参入で失敗するのかを「前提のズレ」という視点から整理しました。
今回は、そのズレが具体的にどのような形で現れるのか、代表的な6つの失敗パターンを整理します。
【失敗パターン①】 規模を前提にしてしまう
一つ目は、規模を前提にしてしまうパターンです。
「大きくやれば安定する」
「投資すれば回収できる」
と考えて、最初から大きな面積や設備で参入するケースです。
しかし実際には、安定していない状態で規模を拡大すると、赤字もそのまま拡大します。
農業は、単純に面積を広げれば、その分だけ売上や利益が伸びる事業ではありません。
栽培が安定していない状態で面積を広げると、
・必要な人員が増える
・管理する範囲が広がる
・資材費や人件費が増える
・栽培のバラつきが大きくなる
といった問題も同時に広がります。
本来は、小さな規模で安定して作れる状態をつくり、その再現性を確認してから規模を広げる必要があります。
ところが、
「大きく始めなければ事業にならない」
という考えを先に置いてしまうと、成立していない状態をそのまま拡大することになります。
農業では、規模を大きくすることよりも、まず安定して作れる状態をつくることが重要です。
【失敗パターン②】 販路があれば売れると考える
二つ目は、販路があるから売れると考えるパターンです。
「自社には販売力がある」
「既存の取引先に流せばいい」
「自社店舗で使えばいい」
と考えて参入するケースがあります。
もちろん、販路は農業事業を成立させるうえで重要です。
ただし、農業は安定して作れなければ出荷できません。
品質が揃わなければ、販路も継続的には機能しません。
例えば、取引先から毎週一定量の出荷を求められていても、
・必要な数量が確保できない
・品質にバラつきがある
・出荷時期が安定しない
という状態では、取引を継続することは難しくなります。
売る場所があることと、安定して商品を出せることは別です。
販路があっても、出せる商品が安定しなければ、事業としては成立しません。
農業参入では、販売先を確保することよりも先に、継続して出荷できる生産体制をつくる必要があります。
【失敗パターン③】 自社技術を先に活かそうとする
三つ目は、自社技術を活かそうとするパターンです。
自社の機械やシステム、設備、ノウハウを農業に導入し、農業分野で実績をつくって、そのまま事業展開していこうとするケースです。
この考え方自体が間違っているわけではありません。
自社技術を活かせることは、農業参入における強みになる可能性があります。
ただし、ここで順番がズレることがあります。
農業では、まず栽培が安定していることが前提です。
安定して作れていない状態で設備やシステムを導入しても、その技術によって成果が出たのか、栽培条件によって結果が変わったのかを判断できません。
また、栽培そのものが成立していなければ、どれだけ優れた技術であっても、農業現場では評価されにくくなります。
重要なのは、
「自社技術を農業に使えるか」
ではなく、
「安定した栽培の中で、自社技術がどのような価値を生むのか」
を確認することです。
栽培の前提が整っていないまま、自社技術を先に置いてしまうと、技術を活かすこと自体が目的になってしまいます。
【失敗パターン④】露地栽培を安易に選ぶ
四つ目は、露地栽培を安易に選ぶパターンです。
露地栽培は施設栽培と比べて初期投資を抑えやすいため、企業にとって参入しやすく見えることがあります。
しかし、露地栽培は天候や病害の影響を強く受けます。
雨量、気温、日照時間、台風、病害虫など、自社ではコントロールできない要素が多くあります。
また、すでに露地栽培で事業を成立させている農家は、長年の経験や地域特性、土壌条件などを踏まえて経営しています。
その領域に、未経験の企業が同じ条件で参入しても、同じように成立するとは限りません。
さらに露地栽培には、同じ地域で同じ時期に、同じ作物が一斉に出荷されやすいという構造があります。
市場に同じ作物が集中すると、価格が下がりやすくなります。
差別化が難しい状態では、
・価格を下げる
・収量を増やす
・コストを削る
といった無理な経営になりやすくなります。
初期投資が低いことと、事業として成立しやすいことは同じではありません。
参入しやすく見えるからという理由だけで露地栽培を選ぶと、後から構造的な難しさに直面する可能性があります。
【失敗パターン⑤】現場と本部が分断する
五つ目は、現場と本部が分断してしまうパターンです。
農業参入の初期段階では、栽培責任者や現場担当者を中心に事業が進むケースが多くあります。
しかし、売上や収量が計画に届かなくなると、本部が介入するようになります。
ここで起きやすいのが、本部が現場の状況を十分に把握しないまま判断してしまうことです。
例えば、売上が想定より伸びていなければ、本部は出荷量を増やしたいと考えます。
しかし現場では、すでに人員や作業量が限界に近く、無理に収量を取りにいくと、品質や栽培全体が崩れる可能性があります。
一方で、現場は栽培を優先するあまり、収益や事業計画への意識が薄くなることもあります。
ここで問題なのは、本部が悪い、現場が悪いということではありません。
判断の前提が揃っていないことです。
現場は栽培を基準に判断し、本部は数字を基準に判断します。
その間をつなぐ共通の基準がなければ、意思決定が噛み合わなくなります。
農業事業を安定させるためには、栽培と経営の両方を理解したうえで判断できる体制が必要です。
【失敗パターン⑥】補助金を前提に設計する
六つ目は、補助金を前提にしてしまうパターンです。
農業参入では、施設整備や設備投資に活用できる補助金が検討されることがあります。
補助金を活用すること自体に問題はありません。
初期投資の負担を減らし、事業の立ち上げを後押しする有効な手段です。
ただし、補助金があることを前提に事業を設計すると、補助がなくなった瞬間に成立しなくなる可能性があります。
重要なのは、
「補助金があるから始めるのか」
それとも、
「事業として成立する前提の上で補助金を使うのか」
という順番です。
補助金は、事業を成立させるものではありません。
あくまで、成立する事業を後押しするための手段です。
補助金を除いた状態でも継続できる収益構造になっていなければ、自立した事業とは言えません。
農業参入では、補助金の有無よりも先に、補助金がなくても事業を続けられる設計になっているかを確認する必要があります。
6つの失敗に共通していること
ここまで、農業参入でよくある6つの失敗パターンを見てきました。
・規模を前提にする
・販路があれば売れると考える
・自社技術を先に活かそうとする
・露地栽培を安易に選ぶ
・現場と本部が分断する
・補助金を前提に設計する
これらは、どれも単体では悪いものではありません。
規模も、販路も、自社技術も、露地栽培も、組織も、補助金も、使い方によっては農業事業の強みになります。
問題は、それらを農業の前提より先に置いてしまうことです。
農業参入の失敗は、特別なものではありません。
多くの失敗は、この6つのパターンに収まります。
つまり、農業参入は「何をやるか」だけではなく、「どの前提を外してしまうか」で結果が大きく変わります。
ここまで読んで、
「自社でもやってしまいそうだ」
と感じたものが一つでもあれば、注意が必要です。
ただし、これらの失敗パターンを知るだけでは十分ではありません。
問題は、こうした失敗が分かっていても、何度も繰り返されることです。
なぜ同じズレが繰り返されるのか。
そこには、もう一段深い構造があります。
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【失敗①】なぜ大企業でも農業で失敗するのか|規模では越えられない農業参入の現実
【失敗③】農業参入がうまくいかない本当の理由―なぜ同じ失敗を繰り返してしまうのか
【市場編】


