1.はじめに|中小企業が農業に注目すべき時代背景
(1)地方の企業が農業に向き合うべき社会的背景
日本の人口は微減傾向にあるものの、生鮮野菜の市場規模は過去18年で1.2倍に増加し、現在は3兆円規模に達しています。
一方、農業従事者数は過去30年で7割以上減少し、今後10年でさらに100万人の減少が予測されています。
こうした背景から、農業は“人が足りない”成長市場と位置づけられ、中小企業にとって新たなチャンスの場となっています。
(2)大企業不在の“ガリバーなき市場”の可能性
自動車業界にはトヨタ、アパレル業界にはユニクロというような圧倒的な寡占企業が存在する中、農業にはそのような“ガリバー企業”が存在しません。これは非常に特異な構造であり、参入障壁が高そうに見えて、実は「競争が少ない」という側面を持っています。しかも、生鮮野菜市場は年々拡大しており、過去15年でおよそ1.2倍に成長しています。
つまり、「市場は拡大しているのに、競合は減っている」──この「市場拡大×競合減少」という構造は、あらゆる業界を見渡しても極めてまれです。たとえば、IT業界ではGAFA、飲食業界では大手チェーンがしのぎを削り、新規参入が難しい領域ばかりです。新しい市場が生まれると、瞬く間に資本力のあるプレイヤーが入り込み、激しい競争と寡占が進むのが現代ビジネスの常識です。
その中で、農業は例外的な存在といえます。高齢化や担い手不足により撤退が相次ぎ、プレイヤーが年々減少している一方で、消費者ニーズは「安心・安全・新鮮」へと高まり続けており、むしろ需要は増加傾向にあります。この需要と供給のミスマッチこそが、農業参入におけるビジネスチャンスなのです。
特に地域に根ざした中小企業にとっては、地元との関係性や柔軟な意思決定が活かしやすく、競合が少ない状態でスタートできる数少ない産業分野となっています。
このような“経営のブルーオーシャン”を見逃す手はありません。
(3)地域密着の企業にこそチャンスがある
農業は地域との結びつきが非常に強い産業です。すでに地域に根ざして事業を行っている中小企業が、農業を通じて地元に貢献しながら新たな収益基盤を築くことができれば、事業の持続性も高まります。地方創生や次世代へのバトンタッチを意識する経営者にとって、まさに検討すべき分野です。
また、農業は「ガリバー」不在の業界とも言われます。
他の業界であれば、大手企業が豊富な資本力やブランド力を武器に市場を席巻し、規模の経済が効く領域では中小企業が太刀打ちしづらい面があります。しかし農業においては、トヨタやユニクロのような巨大資本のプレイヤーが長く根付くことが難しい構造があります。実際に、過去には大手企業が農業に参入したものの、想定していた収益性を得られず撤退したケースも多く見られます。
この背景には、農業の収益構造の難しさや、現場の繊細なマネジメント、長期的な視点での投資回収が必要になる点などが挙げられます。農業は、単に投資すれば儲かるビジネスではなく、継続的な現場対応力や地域との信頼関係、天候や病害虫といった不確実性をマネジメントする地道な努力が求められます。
つまり、投資金額の大小や会社の規模の大小が成功を決めるとは限らないのが農業の特徴です。
むしろ、地域に密着し、地道に信頼を築いてきた中小企業こそが、現場との連携や地域資源の活用において優位性を持ちやすい環境にあります。
大規模化や効率化だけが成否を分けるのではなく、地に足のついた持続可能な経営こそが求められているのです。
JAMPSでは、そうした中小企業の特性を活かした農業参入を支援しており、「地元に強い企業が、地元の農業を支える」モデルこそが、今後の持続可能な農業の鍵であると考えています。
2.よくある誤解と現実|「農業=難しい」は本当か?
(1)「農業は儲からない」というイメージの正体
多くの経営者が農業を“難しそう”“儲からなさそう”と感じる要因の一つに、既存農家の厳しい経営実態があります。
実際、農業所得が年間100万円以下という農家が6割以上を占めるのが現状です。こうした数字を見て、不安を感じるのは当然です。
しかし、JAMPSの視点では、既存農家と同じ経営スタイルを踏襲しても成功しにくいのは当然であり、別のアプローチが必要だと考えています。すなわち、中小企業ならではの視点と体制で、新しい農業モデルを確立することが成功の鍵になるのです。
(2)農業は資金力よりも技術力がカギ
農業と聞くと「大規模な設備投資が必要」「まずは土地を買わないと」といった資金面のハードルを想像されることが多いですが、実は重要なのは”資金力”ではなく”技術力”です。
農業における収益構造は非常にシンプルで、売上の基本式は「農業売上 = 収量 × ㎏単価」で表されます。つまり、どれだけの収穫量(㎏)を確保し、それをどれだけの価格で販売できるかが、経営の成否を分けます。
このうち「収量」は主に栽培技術と環境制御、「㎏単価」は品質と販路に大きく左右されます。莫大な資金を投入しても、適切な栽培技術がなければ収穫量は伸びず、販売価格も上がりません。一方、限られた設備でも適切な管理体制を整えれば、高収量・高品質の実現が可能です。
JAMPSでは、こうした「技術起点の農業経営」を軸に、環境制御技術、工程管理、人材育成、販路戦略までを一貫支援しています。未経験者でもこのフレームに沿って進めることで、安定した収益が見込める体制づくりが可能になります。
(3)栽培技術が“見えない”ことこそ、農業参入の最大の壁だった
農業を始めたいと考える企業の多くがつまずくのは、「何から始めればよいか分からない」というよりも、「栽培技術がどれほど重要かが見えにくく、どう身につけてよいか分からない」点にあります。
実際、農業の成功を決める最大の要因は“栽培技術”ですが、その内容はブラックボックス化しており、インターネットや書籍では一部しか得られず、農家同士でも明確な共有がなされていないケースが多く見られます。また、実現困難な設備投資や属人的なノウハウに依存した手法が多いため、未経験者にとっては「難しい世界」と感じやすいのが現状です。
JAMPSではこの課題に対して、クライアント先の収穫量・品質・栽培環境などのデータを蓄積し、毎年反収(10aあたり収穫量)を伸ばし続けています。同じ農法・同じ設備・同じ苗・同じ土という共通ベースを整えているため、再現性のある形でデータを活かし、JAMPS独自の栽培技術を年々高めてきました。
また、実際の栽培現場を見学できる「現地視察セミナー」を定期的に開催し、具体的な成功例や環境制御の工夫を体感していただくことが可能です。さらに、クライアント同士が学び合う「農業経営研究会」などの勉強会も行っており、成功事例や改善ノウハウを共有しながら、共に成長できる仕組みを構築しています。
このように、“わかりにくさ”を解消し、見える化された技術をベースに事業をスタートすることで、農業はぐっと身近で現実的な選択肢になります。
3.中小企業ならではの農業参入の強みとチャンス
(1)地域資源と人的ネットワークを活かせる
地元に根付いた中小企業は、既存の取引先や顧客、行政とのつながりといった無形資産を活かせます。これは、農業参入を考える上で非常に大きな強みです。特に、企業が農業参入する際に最初に直面する大きなハードルのひとつが「農地の確保」です。
例えば、車窓から見える耕作放棄地の風景を見て、「農地は余っているのでは?」と思われる方も多いかもしれません。しかし実際には、農地法や権利関係、地域の慣習、地権者の事情などが複雑に絡み、簡単には借りられないのが現実です。参入モデルとして一般的な規模である2反(2,000㎡)程度を確保するだけでも、地元外の企業にとっては相当な苦労を要するケースが少なくありません。
この点において、地域に根差し、すでに地元との信頼関係を築いている中小企業は明確なアドバンテージを持っています。既存のネットワークを通じて、農地所有者とのつながりを持ちやすく、農地確保にかかる時間や労力を大幅に抑えることができます。また、行政や農業委員会との連携が求められる場面でも、日頃から地域に貢献している企業であれば、相談・協議がスムーズに進む傾向にあります。
さらに、農業で得た生産物の販売チャネルにおいても、地元にすでにある販路や顧客基盤を活かせるため、“ゼロからのスタート”を回避できる可能性が高まります。たとえば、すでに飲食店や小売事業を営んでいる場合は、自社での販売や既存店舗への出荷といった形で、スムーズにビジネスを立ち上げることができます。
こうした意味でも、地域密着型の中小企業は、農業参入の「スタート地点」において、他の企業より一歩も二歩も先を行くポジションに立てるのです。
(2)既存事業とのシナジーが出せる
たとえば、建設業であれば、ハウス本体の建設自体は専門業者が担うことになりますが、その前段階となる整地作業や基礎工事、給排水・電気の引き込みといった土木・設備関連の業務を自社で対応できるケースがあります。これにより、外注コストを抑えつつ、工期の短縮や品質の確保といった面でも有利に進めることが可能です。
飲食業を営む企業であれば、農業によって得た新鮮な作物を自社の店舗で使用することで、「地産地消」や「農家直送」を前面に出した商品づくりが可能になります。さらに、直売所の開設や自家製の加工品(ジャムやソースなど)への展開といった形で、農業と飲食の垣根を越えたビジネス展開も現実的になります。
小売業の場合は、すでにある販売店舗や流通ルートを活用することで、農業で生産した作物の販路を確保しやすくなります。新たに販路を開拓する必要がない分、リスクを抑えながら事業を拡大することができます。
さらに、製造小売業(SPA)など、自社で企画・製造・販売を行っている業態であれば、既存の顧客名簿やファン顧客との関係性を活用した「ダイレクトマーケティング型の農業」も展開できます。たとえば、農業参入を機に「顧客限定の産直野菜セット」「農場体験イベント」などを打ち出すことで、農業を通じたブランド強化やリピート率の向上を実現することも可能です。
このように、自社の既存事業と農業を掛け合わせることで、単なる“新規事業”としてではなく、“既存事業の延長線上にある成長戦略”として農業を位置づけることができるのです。結果として、初期投資の抑制、販売面での優位性、経営資源の再活用など、複数の面で相乗効果を期待できます。
(3)中長期的な事業の柱に育てられる
多くの中小企業が、農業を“今すぐの利益”を得る手段ではなく、“10年先の事業の柱”として戦略的に位置づけています。これは単なる収益事業ではなく、次世代に受け継げる地元密着型の事業としての育成を目指しているからです。だからこそ、最初から大きな投資をしてスケールを狙うのではなく、小さく始めて、失敗リスクを抑えつつ、地に足をつけて育てていくという発想が重要になります。
JAMPSが支援する農業モデルも、この「小さく始めて確実に育てる」スタンスに基づいて設計されています。2反(2,000㎡)程度の施設からスタートし、まずは地域に受け入れられる品質・量・販売モデルを確立。その上で徐々に拡大していくという段階的な成長を重視しています。
また、JAMPSの農業モデルは、単なる生産事業ではありません。あくまで“地元の人に食べて喜んでもらう”ことを出発点とした「地産地消型」のビジネスです。遠方の市場に大量出荷するのではなく、地域内でのブランド確立と信頼構築を通じて、持続可能な農業を実現していくという考え方です。まさに“Farm to Fork(農場から食卓まで)”の理念を体現するスタイルであり、地域に根ざす企業だからこそ取り組めるモデルと言えます。
農業は、すぐに結果が出る業種ではありません。しかし、だからこそ「長期的な視点を持てる企業」にこそ適しており、地元に根ざした中小企業が将来に向けての事業の柱として育てていく価値があります。JAMPSは、そうした企業の志と歩幅に寄り添いながら、無理なく一歩一歩着実に農業を成長させていく支援を行っています。
4.どんな農業モデルが向いている?現実的な選択肢を紹介
(1)なぜ植物工場が有望なのか
農業には様々なスタイルがありますが、企業が未経験から参入する場合には、「どの方式でスタートするか」の選択が事業の成否を大きく左右します。JAMPSでは、農業未経験の中小企業が現実的かつ持続的に取り組める方法として、「太陽光利用型の植物工場(=太陽光型施設園芸)」を推奨しています。その理由は以下の通りです。
まず、最も古典的な「露地栽培」は、広大な敷地や良質な土壌の確保が前提となり、さらに天候リスク(台風・豪雨・霜など)への耐性が低いため、生産が極めて不安定です。特に初心者にとっては、自然条件に左右される経営は計画的な収益確保が難しく、リスクが高い選択肢です。
次に「簡易ハウス」は、ビニール製の安価な設備で手軽に始められるメリットがありますが、耐久性が低く自然災害(台風・積雪)に非常に弱い点が課題です。加えて、土耕栽培であるため連作障害(同じ作物を育て続けることによる土壌劣化)が起こりやすく、栽培管理の難易度も上がります。
「植物工場(人工光型)」は、建物の中でLEDなどの人工光と空調・養液制御によって完全密閉型で作物を育てる最新技術ですが、初期投資が非常に高額である上に、電気代が莫大で、採算ラインを超えるには高単価で収量の限られた葉物野菜などに限定されるのが実情です。栽培の自由度も低く、汎用性に欠けるため、企業にとっては相当の覚悟が必要な選択肢となります。
こうした中で「太陽光利用型の植物工場(ハウス型)」は、自然の太陽光を取り込みつつ、ハウス内の温度・湿度・CO₂濃度・潅水などをICT技術で制御する栽培スタイルです。日射量以外の天候に左右されにくく、安定的な生産が可能でありながら、完全人工光型に比べて光熱費を抑えられる点が大きな利点です。また、トマト・いちご・ピーマン・キュウリなど、比較的高収益が見込める果菜類の栽培にも適しており、品目選択の幅が広いのも魅力です。
JAMPSでは、この太陽光型植物工場の仕組みを活用し、実際に多くの企業の農業参入を成功に導いてきました。ハウスの設計・建設から環境制御システムの導入、スタッフ教育、販売チャネルの構築まで一気通貫でサポートしており、未経験の企業でも無理なくスタートできる体制を整えています。
農業という未知の分野に挑戦する上で、重要なのは「リスクを最小化し、安定経営へとつなげる導線を描けるかどうか」です。太陽光型植物工場は、その現実解として、最も合理的かつ再現性の高いモデルだといえるのです。
(2)市場データだけではなく、「栽培技術」に基づいた事業採算性を判断する
農業において「何を育てるか」は、事業の成否を大きく左右する重要な要素です。JAMPSでは、品目の選定において感覚的な判断ではなく、「市場データ」と「栽培技術」の両軸に基づいた戦略的な意思決定を推奨しています。
たとえば、生鮮野菜市場規模の推移を品目別に見ると、市場規模で最も大きいのはトマトであり、大きく成長しています。安定した需要と高い㎏単価が見込まれます。その他にも、いちごや玉ねぎ、きゅうりといった品目が上位に入っており、消費者からの根強いニーズがあることがわかります。こうしたデータをもとに、対象とする地域性や想定される販売チャネル(直売所、量販店、業務用など)に応じて作付け戦略を構築することが、経営の安定性に直結します。
ただし、市場規模や㎏単価といった“見えるデータ”だけで品目を判断するのは早計です。農業では、同じ品目であっても「どれだけ収穫できるか(反収)」によって実際の収益が大きく変動します。そして、この“反収”と“品質”を左右するのは、あくまでも「栽培技術」です。
たとえば、トマトは㎏単価が高く市場も大きい一方で、栽培管理が非常に繊細で、水分量や温度・湿度管理、病害虫対策などに高度な技術が求められます。逆に言えば、技術をしっかり身につければ、高収量・高単価を実現しやすい品目です。一方で、同じ品目でも技術が未熟な状態では収穫量が伸びず、想定していた収益が出ないことも少なくありません。
つまり、「市場データで儲かりそうだから」と始めても、栽培技術が伴わなければ意味がなく、また「技術だけに自信がある」状態でも、売れない品目であれば事業化は困難です。重要なのは、市場規模・単価・反収といった数値データと、自社の栽培技術レベルを冷静に照らし合わせ、適切な品目を選ぶことです。
JAMPSでは、農業未経験の企業が安定的かつ持続的に収益を確保できるよう、収益性・市場性・技術習得のしやすさを総合的に判断した結果、品目をトマトといちごに絞って支援を行っています。
トマトはいまや生鮮野菜市場でも最大級の規模を誇る品目であり、栄養価や保存性、調理用途の広さから年間を通じた安定した需要があります。また、いちごは贈答需要や観光農園(いちご狩り)との親和性が高く、価格も安定しやすいことから、高単価な収益モデルを構築しやすい品目です。
ただし、いずれも単に「作れば売れる」という性質ではなく、温度・湿度・潅水・光量・養液など、細かな環境制御による技術習得が前提となります。JAMPSでは、これらの高度な栽培技術を段階的に習得できる教育体制と現場支援体制を整えており、企業が未経験からでも確実に成果を出せるようサポートしています。
むやみに多品目に手を広げるのではなく、成果が見込める品目に集中することで、企業の農業参入を効率的かつ成功確率の高いものにする。これが、JAMPSが考える「中小企業にとって現実的で再現性のある農業モデル」です。
5.まとめ|農業は“次の柱”になり得る。まずは知ることから
中小企業が農業に参入する背景には、
「将来の柱を探している」 「地域との関係性を強めたい」 「新しい分野で挑戦したい」
といった、経営者自身の強い想いやビジョンがあります。
しかしその一方で、農業に対しては「難しそう」「専門知識がないと無理そう」といった不安や、情報の少なさからくる漠然としたハードル感が根強く、関心はあってもなかなか第一歩を踏み出せない企業が多いのも事実です。
けれども実際のところ、農業は中小企業にこそ大きな可能性がある分野です。特に、地域に根差した関係性や、既存事業で培った経営資源を活かせる企業であれば、むしろ大手にはできない柔軟な展開が可能です。
JAMPSでは、そうした中小企業の想いや構想に寄り添いながら、農業参入に必要な情報やノウハウを“共に考え、共に形にしていく”存在として、多くの企業と並走しています。
私たちは「支援する」というより、「一緒に伴走する」ことを大切にしています。農地確保や施設選定、栽培技術の習得から、販路開拓やブランディングに至るまで、企業ごとの状況やペースに合わせて伴走し、対話を重ねながら設計していくのが私たちのスタイルです。
まずは情報を集めるところから。そして、自分たちの考えに耳を傾けてくれる相談先を持つこと。それが、農業参入を成功に導く確かな第一歩です。
挑戦する企業の数だけ、農業のカタチがあります。JAMPSは、その企業らしい「農業のはじまり方」を一緒に見つけていきます。